前回、フランス政府が主催する数学オリンピックで息子が好成績を収めて驚いた話を書いた。それで、改めて、算数の教え方について、振り返ることにした。
2年前から、勤務校で算数も教えるようになったので、色々と考えること、迷うことも多く、その経験も織り交ぜながら振り返りたい。
フランス式か日本式か、子供によって適している方法は違う
うちの上2人は、完璧な形ではないにしろ、日本とフランスの両方の算数の教え方を体験しているので、まずはこの2人の体験談から始めたい。
長女は、日本式の算数の教え方があっていたようで、土曜日に通っていた日本語補習校の算数の授業のおかげで、フランスのクラスの授業についていけたとよく言う。数学の成績はそんなに悪くはなかったけど、教科の中では苦手な方に分類され、何よりも好きでなかった娘にとっては、日本式があったようだ。
一方、息子にとってはフランス式が良かった。本人が言うには、「自分のペースでどんどん進めるのがいい」らしい。日本の「みんなで一緒に考えながら」の授業の進め方は、彼にとってはまどろっこしいらしい。あとは、計算問題を大量にやらされるのを嫌がっていたのを記憶している。
ざっくりした言い方をすると、フランス式は数学が得意な子には良くて、日本式は中間層から苦手な子の理解を助けると感じている。
とにかく、スモールステップを繰り返し、積み上げていく日本式
日本の教科書を単元ごとにみていただければわかるが、どの単元も
既習事項の確認
→簡単な数字を使い、既習の概念では解けない、新しい概念、法則などに気づかせる
→桁数を増やしたり、文章問題で考えたりして、自動化するまで練習問題
→発展問題
みたいな構成になっている。
毎回の授業も、大抵、
問題の提示
→ 既習事項を用いた自力解決
→集団思考
→新しい概念の導入、まとめ
→それを使った練習問題
みたいな構成で展開していくことが多い。
そして、大抵の場合、宿題ではドリルが出され、反復練習を課すことで、計算や概念の応用が自動化するまでもっていく。
難しい子にとっては、ある程度決まった手順で、整理された形で知識が教授され、練習までセットされているので、とてもわかりやすい。実は、教える方も、数学の専門家でなくても、教科書に沿ってちょっと工夫して教えていけば子供をすんなり理解させることが多いし、理解ができていない子がいても、どこにつまずいているか判別して、手助けしやすい。
ただ、子供が理解しやすいように、「色紙の束の問題」などシンプルな問題にするため、現実離れして、「学校の算数の問題」に化してしまい、面白くないことも否めない。
また、スモールステップで、全体が同じように進むので、理解が速い子は待たされることになる。そして、ある程度、学習の形がパターン化されていて、既習事項を使って問題を解くという、暗黙の了解があるため、わかる子にとっては退屈でたまらないとも言える。
とにかく、考えさせるフランス式
一方、フランス式は、教科書が貸与式だからか、教科書の問題を教師が適当にピックアップしながら授業が展開されるせいか、あまり授業の形が定型化していない印象を持つ。ほとんど宿題も出ないし、大体、今何を勉強しているのか、本人に聞いてもよくわかないことが多く、ノートを見てもわからないので、どう手伝っていいのかわからないと言うのが、親として常々感じていたことだった。
ところが、2年前からフランスの算数のプログラムの一部を日本語で教えることになったので、フランスの算数の教科書をよく見る機会に恵まれた。
フランスでも単元ごとに分かれて、それなりに導入→概念の導入→定着のための練習問題 みたいな流れになっているんだとまずは少し安心した。でも、よくよくみて、いくつか発見があった。
まず、最初に驚いたのは、導入の問題の難しさ。
例えばこの問題。
私が子供用に作った日本語訳は以下の通り。
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グラウンドを周回するサイクリングのきょうそうがありました。
アヤは、すでにピッタリ5周しました。1400m走ったことになります。
ロミは、900m走りました。トムは、1700m走りました。
3人とも最後には、7280m走りました。
① このグラウンドの一周は、何mでしょう。
② ロミとトムはそれぞれ、何周は終わっているでしょうか?
③ 3人は、最後には、全部で何周することになるでしょう?
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わり算の単元だが、ただでさえ、子供が混乱しやすい、「包含除」と「等分除」を混ぜた問題をいきなり導入の部分でやる!!「あまりの意味を考えさせる問題」まで最初から取り上げている!!これ、算数的な思考に入る前に、かなりの「国語力」が要求されるし、しかも、いきなりこんな桁数が多い数を使ったら、算数嫌いな子、国語が苦手な子は、最初からドロップアウトしちゃう!!と、驚いた。
そして、計算では計算方法のアルゴリズムを教えることより、そのようなアルゴリズムが作り出されるその過程を理解させることに時間とエネルギーを注ぐ。
例えば、この問題。
「日本では「かける数」の一の位から順番にかけること」を徹底して教え込むけど、フランスでは、「位ごとにかけていき、最後にそれを足していけばいいのだ」という風に持っていく。どちらの方法も間違っていないし、それぞれの人がどのように考えたのかということを読み解くこと、自分で説明する力をつけることに重点を置いているのだ。
さらに、練習問題の文章題も、日本では小学生にこういう問題を出さないよなぁと唸った。
例えば、この問題。
日本語訳は以下の通り。
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お母さんは、1350ユーロのパソコンを買いました。買う時に、ローンばらい(何回かに分けてはらうこと)をすすめられました。月々、118ユーロを12ヶ月はらうプランです。このプランだと、いくら多くはらうことになりますか?
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現実にあるあるの問題は、子供達にとって興味を持って取り組めるし、どんな方法でも自分の持っている全てを出して解こうとする姿勢が身に付くと感じる。
前にも記事に書いたが、「自力解決」をする時、日本ではどうしても算数が得意な子の活躍が目立つけれど、フランス式でずっと授業を受けてきた勤務校の子どもたちは、算数が苦手な子どもでもまずはやろうとする、できる子はすごく楽しんでやるという点で大きな違いがある。
フランス式のデメリットは、苦手な子はやっぱり最初の段階で脱落しがち。繰り返しが少ないので、九九や計算方法などは習熟まで辿り着かず、それがネックとなって問題を考える余力がなくなっているように感じる。
ということで、かなり感覚的ではあるが、両方を体験したうちの子供、教師の私なりに二つの国の方法を比べてみた。
もちろん、それぞれの良さがある。私は、日本の教科書に従って順々にやり、最後にフランスの教科書から面白いな!と思う問題を日本語訳にしてクラスで扱うことが多い。
次回、それぞれの国の様式がどんなタイプの子供に合うか、育てるのかを示す我が家の具体的なエピソードを紹介したい。