日本に一時帰国している元補習校の同僚と会って、教育談義をすることができ、楽しい年末のひとときとなった。そこで出た話が「音読」について。彼女が言うには、「音読はとても大事だと思うのだけれども、宿題で出してもどうも軽んじられている傾向がある気がする」とのこと。来年は1年生を持つ予定になっているので、そのことが何とかならないかと思いあぐねている様子だった。
私も音読は大事だと思っているけれども、子どもにとっては単調でつまらなく、親にとってもちょっとめんどくさいのもよくわかる。機械的な宿題の出し方になっているのが問題ではないかなと思う。たいていは、音読カードを配り、そこに親がサインする仕組みになっている。そこで、改めて、なんで音読を必要なのかな、実りあるものにする一押しは何かを考えてまとめてみることにした。
目次
音読の効用
音読が大事ということはよく言われるけど、なぜか?私は、大きく3つあると思う。
①音読の技術力の向上
②読解を深めること
③学びを広げるきっかけ
①音読の技術力の向上
低学年の目標として掲げられる「すらすら読める」ことのためには、繰り返しの音読はどうしたって必要だ。「文字を音に変換すること」「言葉や文節のまとまりをとらえて、自然に読むこと」は、どの言語においても必要なことだろうし、日本語においては、「漢字から意味をキャッチすること」がうまくできるようになる事は、文章の意味を速く正確にとらえるためには必須だろう。これが自然にできなければ、読んでいても、文章の意味がつかめず、読書の楽しさを味わうことができない。楽しくなければ、本に手が伸びるはずがなく、読書から遠ざかるから、読む力も伸びないという悪循環に陥ってしまう。子どもたちが漫画が好きなのは、文章を読まなくても絵で、反射的に意味を理解することがどんどんできるからである。漫画はもちろんとても良いツールだと思うけれども、学校で漫画よりも本の読書を進めるのは、絵の力を借りなくても、文字情報だけで、自分でイメージを頭の中で繰り広げられるようにに育てたいからである。というわけで、この「スラスラ読むこと」が音読の第一の目標だと私は思っている。
②読解を深める。
ただ、読む速さだけを向上させたいのであれば、毎回違うテキストにしてもいいわけだ。それではなぜ同じテキストを何度も読まされるのだろう。誰でもそうだと思うけれども、何度か読むと、そのたびに発見があるのではないだろうか。一番初めの時はとにかく筋を追うので精一杯だけれども、何度か読むうちに読み違いに気づいたり、この表現いいなぁと思ったりする事はないだろうか?
学校の国語の授業では、何時間かかけて、段落構成を教えたり、言葉の意味や登場人物の気持ちをみんなで考えたりしている。単元によっては、接続詞やこそあど言葉に焦点を当てることもあるだろう。
家での音読はそういう新しい発見をしたり、学校で学んだことを頭の中で整理するきっかけになったりすることと私は考えている。学校は、いろいろな子どもが集まり、いろんな意見やつぶやきがあるので、学びが広がるけれども、ガヤガヤしているので、個々の子どもの中に完全に落とし込むところまではなかなかいかない。家に帰ってゆっくり5分でも音読をすることは、子どもがもう一度習ったことを思い出し、自分の頭の適当なところに整理するきっかけになるはずである。実際、うちの娘も、音読した後に「あーそういうことか」とつぶやくことがあった。「先生の説明だとよくわからなかったけど」とぶつぶつ言いながら。もちろん、いつもではないけれど、口頭で説明されたことが腑に落ちなくても、場所を変えて書かれたものを読むことで、ストンと落ちる事は誰でも経験してることだと思う。
③学びを広げるきっかけ。
家で音読することで、家の人が子どもが今、何を学校で学んでいるのかを理解することができるのも、音読の宿題のメリットだと考えている。「この意味わかる?」「こんな難しいこと勉強してんのか!」「これ位知ってると思ったけど、知らないのか!」「今、戦争のことを勉強してるのね。そしたら、今度、図書館行った時に戦争に関わる物語を選んでみようか」「この話、お母さんが小さい時も教科書に載ってたわ。あの頃意味わかんなかったけど、今はこのお母さんの気持ちはよくわかるわ」なんてことを会話できたら、子どもの理解の幅や興味関心はグッと広がるだろう。
実りあるものにするために、教師ができること
音読の効用をいろいろ考えてみたけども、普通の親御さんはそこまで考えらないと思う。だから音読は「めんどくさい宿題」になってしまうし、めんどくさいと思ってやってる事は大抵あまり実りある方向にいかない。だから、教師は、機械的に「◯回音読」という宿題を出すのではなくて、これらを子ども本人や保護者が意識できるようなサポートをする必要があると思う。その具体的な方法を少し考えてみた。
①「すらすら読めること」を可視化する。
「すらすら読める」というのがよく音読カードのチェック項目によく出ている。でも、何をもってすらすら読めたかという事は書かれていないので、とても曖昧な基準である。だから子どももやる気が起きない。
ある時、娘のフランスのクラスで「1分間で音読できた単語数を数えて、それをグラフにする」という宿題が出た。これだ!と思った覚えがある。目に見えて、音読の上達がわかるので、娘は何回も何回も再挑戦して、技術力はとても向上したと思う。この場合は、内容読解は全然要求されてなくて、ほんとに技術的な訓練という感じだったけれども、小学校1年生のときにはこういう練習も必要かなと思った。
②音読の前にめあてをはっきりさせること。
これはほんとに教師の大事な役割だと思うんだけども、ただ機械的に何度も読ませるのではなくて、毎回、音読の前にめあてをもてるようなサポートが必要だろう。できれば、学年が上がるにつれて、子ども自身がそのめあてを自分で設定できるように育てたいものである。
例えば、初めて読むときは、「登場人物や話題を読み取る」だろうし、回数が増えるにつれて、「段落の切れ目を見つける」「気持ちを表現してる言葉や行動描写を見つける」「接続詞の数を数える」などと変化していくだろ。こうすることで、子どもは目的意識を持って読むから退屈することなく、まさしく音読の度に読解が深まることになる。
③親に音読の目的をしっかり伝える。
私もあまりよくできてはないのだけども、年度初めの保護者会なので、宿題の説明するときに、音読の目的をしっかり伝えておくといいと思う。音読の宿題を聞くのは面倒かもしれないけれど、「今、子どもが何を勉強してるのかを知るきっかけと捉えてほしい」「学んでいることがわかったら、そのテーマに関わる話をしてあげてほしい」「テーマに関する自分の思い出話をしてあげてほしい」「関係する本を借りてみるのもいいアイデア」などといった感じでちょっとアドバイスするだけで、親御さんの音読に向き合う気持ちや態度も少し変わるのかなと思う。
と、なんか偉そうに書いたけど、書きながら、改めて音読もっと大事にしないとなぁと思った私。実は、定番の「音読カード」。集めたり返したりする手間が煩わしい割に、効果がない気がして、ここ数年は違う方法をとっている。
単元の始めに、ポストイットを一枚ずつ配り、そこに◯を10個書かせ、読む毎に、日付を書かせて、時々抜き打ちでチェックしたり、単元の最後に集めて確認したりという方法。
今教えている子は、①のスピードは十分にクリアしている子どもたちだし、②の読解も問題を感じないし、こんなズボラなやり方でも、結構真面目にやっている様子が毎回の授業で見えるので、このままでいいのかなとも思う。でも、③の親御さんを巻き込んで学びを広げるきっかけにするには、もう少し考える余地があるかも。一単元に一回は、家の人のサインをもらうようにするかな??それよりも、今の子どもたちなら、「音読の宿題を出すわけ」を丁寧に説明しただけで、グッと態度が変わりそうな気がするので、そこから始めようかな。
・・・と、休みになってもあれこれ授業のことを考えるのが、楽しい私でした。9月から勤務校で新しいコースを担当させてもらって、自転車操業の日々だったけど、ようやく、日々の実践を振り返る余裕が出てきたのは嬉しい。こんなきっかけを与えてくれた元同僚にも感謝!