「僕さぁ、漢字って難しいって思ってたんだけど、分けたら簡単だね。」
2年目になる漢字クラブの最終日。普段は少し落ち着かない2年生の男の子が授業中に手を挙げてこんなことを言ってくれた。
内心ガッツポーズをする私。なぜなら、これこそがまさしく私たちがこのクラブで1番伝えたかったことだから。
彼の得意気なこの発言に、3分の1の子供たちは「そうだ!我が意をえたり!」とばかりにうなずいている。3分の1の子供たちは「何を今更、当たり前のこと」というような表情。そして、残りの3分の1は何を言ってるのかわからない様子。
1年間の活動通して、3分の2の子達が、この境地に達しているのであれば、授業の仕方はそれなりに良かったといっていいだろう。
と言っても、今年は、私はほとんどアシスタント役で実際に授業を進めてくれたのは、私の教員仲間。色々ともっと手伝いたかったのだけど、勤務先で新しいコースの立ち上げだったので、これ以上は無理だった。それでも、1年目無理やり誘って一緒にやってもらって、2年目彼女が主体でやってくれて、この成果に達したのであれば、これがよかったのだろう。
もう一年一緒にできれば、もう少し体系化して、第三者にもわかるような「誰でもできる漢字クラブのすすめ」みたいなパッケージができるかなと思うけど、彼女はご主人の仕事の関係でこの夏パリへと旅立つ。
寂しくない、残念な気持ちがないといえば、嘘になるけど、それよりも一緒にいられる期間で、これだけのことができたという喜びの方が大きい。そして、きっと、これからも物理的に距離が離れても、ずっと緩く長くつながって、どこかでまた一緒に仕事ができる予感がしているから、大丈夫。
目次
私か彼女に惹かれたわけ
今更ながら、なぜ彼女を誘ったんだっけと思い出してみた。
彼女は、勤務校で出会った時が印象的だった。
教室で新学期の準備を忙しくしているところに、新人の私がフラッと入って行って、いきなり「この学校のプログラム、目を通したけど、すごくわかりにくいのだけど、他に何かありますか?」みたいなかなり不躾な質問をしたと思う。そしたら、
「やっぱりそう思いますよね?私もそう思って、フランスの教育省の外国語プログラムのサイトに行って・・・何年目かにしてようやく自分なりにこんな風に作り直してはみてるのですけど」
と、エクセルのファイルをパッと私に見せてくれたのだ。
何か疑問に感じた時に、文句を言うのではなく、自分で探しに行って、自分なりに作り直す、そんな姿勢にすごく惹かれた。
何事にも妥協なく、真摯に立ち向かう
そんな彼女の人柄に惹かれたことがもちろん、彼女を誘った1番の理由。
その後、少しずつ個人的な話もするようになり、彼女が子供三人の母であり、私と同じ、「移動する家族」なのだと知った。移動しながらもキャリアを作っていけるよう、日本語教師に転職を決意。今に至っていると知った。
「こーんな楽しい仕事があるなんて、と思いました」という彼女に、同志💓とビビッと来てしまった。
それでも、小さい三人の子育てをしながら、教員の仕事に四苦八苦しているのは横目にもわかった。
そう、彼女は、家族を守るために自分のやりたいことをいつも二の次に置かないといけないという、10年前の私と同じ境遇にいた。
走っても走って、ようやく何かを掴みかけた時、移動。
結局、家族も仕事も、なんだかどっちも中途半端な気分。
先輩ママとして、それを逆手にとって、
今できることを目一杯やって!きっと10年後それが生きてくるから
と伝えたいと強く思った。それが、彼女と何かをやろうと思った二つ目の理由。
そうして、お互い自分達の子供を入れた漢字クラブを作ろう!というプロジェクトを立ち上げた。
もちろん、勤務校のプログラムではどうにもできない、漢字難民の子供達を一人でも多く救いたいという大義名分もあった。
だけど、場所の選定、金銭の管理、プログラム作り、道具揃えなど、乗り越えないといけない課題はいくつもあって、やっぱりそこに「母」としてのモチベーションが働かないからには、正直ここまでエネルギーが出せなかったと思う。
このパートナーシップは成功!
「この1年間で、次男の漢字の力が本当に伸びた。基本漢字を覚えたことはもちろん、それを組み合わせて合わせ漢字を作るということがよくわかった」
と彼女が言ってくれたこと。この一言で、このパートナーシップは成功だったかなと思えた。
冒頭に書いた通り、クラブに来てくれた子にとっては意味があるものであったことはわかった。だからと言って、それが自分の子供の犠牲の上にあったのでは、ちょっと片手落ちと思ってしまう。
自分の子供を育てるだけでなく、一緒に他の子も育てようと思う。
そのことが結局、自分の子供を伸ばすことにつながる。
私も、去年漢字クラブを通して、末っ子が確かに成長したのを感じられたし、彼女も今年、それを感じられたのであれば、このパートナーシップは本当に大成功だったと思う。
・・・と自画自賛だけど、彼女もそう感じくれて、この関係が離れても続くこと、このバトンがまた次の後輩ママに繋がれていくことを願って。