前回、バイリンガル児にも「漢字力が必要である理由」について、私なりの考えを書いた。今回は、「どの程度」について書こうと思う。
先日、日仏家庭のお母さんに、まさしくこのことについて質問された。
「上を目指したらいくらでもあるとは思うのですが、フランス教育をメインに置いた日仏児の場合どこまでやらせればいいですか?」
という質問だった。
私なりの回答は次の二つ。
漢字力を数や学年ではなく、義音形の「層」で捉える
最初に勧めたいのは、
漢字力を数や学年ではなく、義音形の「層」で捉える
ということ。
一般的に、保護者と話していると、
「何年生の漢字を勉強している」
「このクラスでは漢字を扱うか」
といった
配当学年や漢字の数
にすごく関心があることが多い。
そして、「漢字ができない」と嘆く時、
漢字が読めて、書けて、書き順正しく、止めはねも気をつける
ことまで要求していることが多い。
でも、考えてみてほしい。普段、日本語とは別の言語環境をメインに暮らしている子どもたちにとって、これは、かなりハードルが高い。
例えるなら、ようやくフラフラと補助なしの自転車に乗れるようになった子どもに、一輪車も乗れるように!と言っているくらい、大変なことを要求していると思う。
なので、私は
漢字力を義音形の「層」で考えること
を勧めている。そうすると、スモールステップが踏めて、子どもへの声掛けも変わる。
漢字力を義音形?と言われてもピンとこない人が多いと思うが、
基本的に漢字習得は、
「意味がわかる(義)」→「読める(音)」→「書ける(形)」の順に進み、
「読める」→「書ける」の間には大きな隔たり
がある。ところが、大抵の保護者は、「意味がわかる」だけでは、できたとはみなさないし、おまけにようやく「書ける」ようになっても、横から「書き順が違う」「きちんとはねてない」などと言い、子どもたちをゲンナリさせてしまう。
でも、考えてみてほしい。
日本の生活で、読めなくても漢字を見て意味がわかれば、看板やメニューなどで格段に理解できる世界が広がる。
読めれば(あるいは読み方の見当をつけられれば)辞書を引いたり、人に聞いたりもできる。
「書ける」にはかなりの時間とエネルギーを要するのに、残念なことに、せっかく書けるようになっても、ちょっと書かないと忘れてしまう。特に、繰り返し書いて「手続き記憶」的に覚えた漢字はすぐに書けなくなってしまう。
なので、漢字力を考える時、配当学年や数に囚われすぎず、自分が目指している日本語力から逆算して、
義音形の「層」のどこに焦点を当てるのか、
あるいは、
どこまで到達しているのか
を考える視点を持つことは大事だと思う。
日本の学校教育の中にいたら、そうもいかないだろうが、海外で育つバイリンガル児であれば、300個の漢字の読み書き両方より、1000個の漢字の読みを目指す!といった目標設定もありなのではないかと思う。
漢字力を低、中、高学年の三つの括りでザクっと捉える
とはいえ、国語の教科書はそれぞれの学年の発達段階や学習の系統性を考え抜いて作られたものなので、これを上手に活用しない手はない。
そこで次に勧めたいのが、
漢字力を低、中、高学年の三つの括りでザクっと捉えること。
あまり学年ごとの配当漢字に気を取られる必要はないが、それでも、低、中、高学年、それ以上といった感じでざっくり分けて目標を決めることを勧める。
低学年は、象形文字を中心とした具体的な事象を示す漢字が多い。この段階は、「基本漢字」がほとんどで、漢字は表意文字であることを理解しやすく、ここをマスターすると、覚えた漢字をパッケージや通りの看板などで見つける喜びを味わえる。
中学年は、音訓読みの両方を習得する時期。この段階になると、扱う漢字も抽象的な概念が増える。それで、この段階で、漢字を嫌いになり、やめる子が多い。
ただ、ここをクリアすると、欧米の多くの国が高校卒業時に課する「外国語としての日本語」の漢字レベルはクリアできる。海外で育てるなら、ここを最初の目標にするといいと思う。(あくまでもザクっとした捉え方なので、詳細は各国のテストを確認してほしい。)
高学年は、漢字の抽象度が上がり、同音異漢字、同音意義語も増える。この段階までくると、漢字だけの暗記では厳しく、日本語で豊富な語彙力を持っていないと、太刀打ちできない。
でも、ここをクリアすると、日本語能力試験1級で漢字のせいで足切りに合うことはなくなるレベルと思っていい。
ええ?と思うかもしれないが、うちの息子を通して、それを実感している。息子は、中二くらいの時に、小6レベルの漢検に合格。その後、彼は日本語学習をやめて英語にシフトした。そして、3年後、高2の時、大学受験の自分の経歴にハクをつけるため、日本語能力試験に挑戦した。驚いたことに、ほぼ勉強なしで日本語能力試験1級に合格。つまり、小学校高学年まで学べば、少なくとも「外国人」としての漢字力ではトップレベルと認められると言ってもいいのかと思う。
漢字クラブのすすめ
ということで、バイリンガルとして日本語を学ぶ場合、学年配当漢字に惑わされず、
漢字力を「意味、読む、書く」に分けて考えること
低中高学年でザクっととらえ、目標を決めること
を強くお勧めしたい。それで、保護者も指導者も迷子にならずにすむと思う。
これが、マルチリンガル漢字指導法研究会で6年間、研究会のみんなと国語でもない、外国語でもない、継承語して学ぶ子どもたち、バイリンガル、マルチリンガルの子どもたちにとっての漢字力について究めていって、私が辿り着いた結論だ。
2月3月で行う講座では、この考えのもと新発想の漢字へのアプローチ、「漢字クラブ」の実践を紹介する。一番おすすめしたい人は、
補習校の先生
だけど、補習校の保護者でも、日本語教室の先生でも、普通のお母さんお父さんがプレイデートのついででも、すぐに試せるアクティビティがたくさんあるので、ぜひ ↓からお申し込みを!
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私は、密かに、いつか、孫とその周りの子どもたちのために、漢字クラブをやりたいなと思っている。
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