フランスでバカンスを過ごしている。先に私と末子がフランス入りして、息子が後から合流した。
空港から家に向かう途中の会話が、「日本人ならでは!」で、ちょっと面白かったので紹介したい。
オノマトペで理解し合えるパンオショコラ
息子「パン食べた? いつものパン屋さん、空いてる?」
――と、空港からの車内ですでにフランスパンを楽しみにしている息子。
フランスでは、パン屋さんも3週間夏休みを取る。なので、私たちが滞在中にそれが重なると、期待していたパンが食べられないこともあり、息子はそれを心配しているのだ。
彼が言う「いつものパン屋さん」というのは、滞在している家からいちばん近いパン屋さんのこと。
娘「それがさぁ、いつものパン屋さんがあんまり美味しくなくなっちゃって、真ん中のパン屋さんで買うようにしてるんだよ。」
息子「フランスなんだからさぁ、パンが美味しくないなんてことあるの?」
娘「うん、パン・オ・ショコラが、しなっとしてて、パサパサしてるんだよ。」
息子「しなっとして、パサパサしてるって、なんか矛盾してない?」
確かに「しなっ」と言えば、水分を含んでいるようなイメージがあるし、「パサパサ」と言えば水分がなく乾燥しているような印象を受ける。
娘「でもそうなんだよ。あのパン・オ・ショコラの端っこのパリカリっていうのがないんだよ。」
息子「えーー、それって最悪じゃん。」
――ということで、次の日の朝、さっそく早起きしてパンを買いに行った息子。半信半疑だったが、食べてみて、
「ほんとだ。しなっとしていて、パサパサしてる!!」
私はこの会話を聞きながら、別のことを考えていた。
これだけの言葉で、あの食感を表現できるって、日本語ってやっぱり素晴らしい!
そして、その日本語を使って、子どもたちと微妙なことを表現して通じ合えるって、幸せだなぁと。
「つるす」と「干す」の違い
その後、部屋に入って、スーツケースから洋服を出して片づけ始めた息子。今度の9月から家を出て、フランスの大学に入る息子なので、スーツも持ってきていた。私が部屋に入ったときに、それが平置きになっていたので、
「これ、隣の部屋のクローゼットに干しといてね」
と声をかけた。すると息子が、
「なんか今の日本語、ちょっと変じゃない? なんか違う言い方しない?」と聞いてきた。
実は、ちょうど洗濯物を干さないとと思っていたので、ついその言葉が出てしまったのだけれども、言ったあとで、もちろん日本人の私は「変だ」と気づいていた。
「そうだね、普通は“つるす”って言うね。」
息子「そうそう、それ! なんか変だと思ったんだよね。」
なんでもない会話だったけれど、こういう言葉の微妙な違いを息子が感じ取ってくれて、嬉しかった。
もし、日本人同士のカップルで日本で育っていれば、こんなこと、考えもしないのだろう。
海外生活が長く、中2から日本語より英語を勉強することを選んだ息子だからこそ、こんななんでもないことが、とても嬉しく感じる今日この頃。