by kaori horike
我が家は日仏カップルだ。子供が生まれたとき、両方の言語を読み書きできるようきちんと教えようと2人で合意して育ててきた。考えてみれば、夫も日本語を流暢に話すし、日本が好きなので、日本の教育システムに乗せて、フランス語は学校外で教えるという選択肢もあった。でも結局は、彼の仕事の関係や私が教員で日本語のサポートを家でできることもあって、フランスの教育システムをメインに、日本語は補習校や通信教育などで補ってきた。積極的にフランス式を選んだわけではないのだけど、それでも中学校以降は、フランス式の方がこれからの時代に合っているとぼんやり考えていた。今、上の2人は大きくなり、この選択で良かったなぁと思う場面がいくつかあったので、書き留めておきたい。
日本では、良い大学に入るために多かれ少なかれ塾に通い、受験に勝つテクニックを学ばないと不利な状況になる。それは、大学ごとに受験問題が用意され、癖のある問題を出すので、それぞれに対策を取る必要があるからだ。一方、フランスでは、中学の最後と高校の最後に、それぞれの修学内容を習得したことを証明するテストがあるが、学校が責任を持って指導してくれる。採点するのも、教えた先生たちなので(学校間で答案用紙を交換して採点)、当然テストで何を測りたいか、どんな問題が出るのかを理解した上で子供たちに教えてくれる。学校の勉強の後にさらに夜遅くまで塾に通う日本の学生に比べて、フランスのシステムはとても良いと思う。
私個人的には、この「文章力がつく」という点にとても惹かれたのを覚えている。フランスの中等教育終了時には「バカロレア」というテストがあるのだけれど、ほぼ全てが記述式だ。記述式といっても、日本のそれとは桁違い。テスト時間は全部で4時間程度、A4用紙10枚分くらいの内容を、主題に関する論文形式で書き上げる必要がある。もちろん、そのための訓練を授業中にずっとしていくので、バカロレアに合格する子供たちは、ある程度文章の形で自分の考えを表現できるようになっている。どうしても「公平さ」にこだわりすぎ、誰が見ても丸かバツをつけられるマークシート式テストが主流な日本の受験システムとは、ここが大きく違う。
これはまだうまく言語化できないのだけども、フランスは教育全体で「覚える」ことや「詰め込む」ことを最小限に抑えている気がする。日本では暗記教科の代名詞ともいえる社会科でも、フランスでは覚えさせる内容を最小限にし、資料を分析する方法や見方のテクニックを教え、そこからの解釈は生徒に任せる。一般的なフランス人でも、何か資料を見たときに、それを分析して自分の意見を述べることをサラッとやってのけるのにいつも感心する。
最近、高3の息子を見ていて改めて痛感した。この自由な時間の多さ。
うちの息子は、最も授業数が多いコースを選択しているので、平日はなんだかんだ朝8時から6時までびっちり授業が入っている。それに加えて宿題も出されるので、かなり忙しいとは思う。それでも、その後塾に行くことがないので、同じく高3の姪っ子に比べると随分余裕があるように見える。
この前、机の上にこんなメモ書きがあって驚いた。「1人前のエンジニアみたいじゃない!」と。
本人に聞いたところ、有志が参加するプロジェクトに応募して、「和紙を自動で作るロボット」を作るプランなんだそうだ。友達数人と応募し、プログラミングを勉強しながら、小さな電気器具を学校から提供してもらい、技術の先生に適宜相談しながら進めているという。
私は高校3年生の時、こんなこと考えもしなかった。高3の初めまでは部活に夢中になり、その後はひたすら受験勉強をしていたと思う。それが悪いとは思わないけれども、ある意味、学校や社会が用意した「高校生らしい」生活に疑問も持たず、そのレールから外れないよう走っていたと思う。なのに、息子は、自分が興味があることを受験生の時にも楽しそうにやっている・・・。
私になかったもので、今の息子にあるものは何かと考えたら、それは「自由な時間」なのだと思う。フランスの学校システムはとにかくバカンスが多い。親には意外とこれが負担だったし、子供たちもせっかく生活のペースができた頃に休みになってリズムが狂うので、これまでは否定的に捉えていたけれども、学校から思いっきり離れて何もしない自由な時間の大切さを今、痛感している。もちろん自由を持て余して、ひたすらSNSに没頭してしまえば元も子もないのだけれども。
フランスでは完全に絶対評価だし、大学受験の際に競争はあるものの、基本的にはバカロレアの得点で進学先が決まる。同じ高校から良い高等教育機関に何人でも進学できる。そのため、クラスメイトが良い点を取ったからといって自分の得点が下がるわけではないので、協力して頑張ろうという態度に繋がると思う。
中学や高校の頃、仲良しの友達が良い点を取ると本当は喜んであげたいのに、相対的に自分の立場が危うくなるので素直に喜べなかったことを思い出す。逆も同じで、自分が良い点を取った時に、友達にどう思われるだろうと不安だった記憶がある。それに対して、うちの息子は、ネットなどで得た良い情報をクラスの仲間にシェアして「一緒にこの大変な時期を乗り越えよう」と協力し合っている。そういえば、今はフランスの大学に進学した娘も、お互い得意な教科と苦手な教科が違う友達と協力し合って、伸びていったのを覚えている。
もちろん、どちらの教育システムが良いとか悪いとかは一概には言えないけれども、こういう点では、フランス式いいなと思った。