石井式漢字指導法は、マルチリンガル漢字指導法研究会でも何度か話題に上った。
手法のみを真似して、読み聞かせをしながら、キーとなる言葉を漢字カードにして見せたり、指し示したりしながら読むというものだった。それでも、終わった後に、子供に読み方を確認すると、意外におぼえているもの!という話だった。
その時は、学習の呼び水として面白そう!ただ、キーの漢字をどう選ぶのかな、短期記憶には留まるだろうけど、次の週にはどうなっているのかな?と思った覚えがある。
その後、ググって、石井先生の文章を読んで、これはこれで深そうだなと思ったものの、石井式の主なターゲットは幼児で幼児を今教えていないので、そのままになっていた。
それが、研究会のメンバーで石井式の門下生がいらして、是非紹介したいと言ってくださったので、去年の11月の定例会で発表してもらった。
最初は「まだ未熟なので、石井式の協会の方を講師としてお呼びして・・・」という仰ったのだけど、この研究会の趣旨は、正解を教えることではなくて、参加者が一緒に考えることだし、発表の準備をすることで、自分の考えを整理して新たな気づきを得てもらうことという思いもあって、メンバーご本人に発表をお願いした。
結果はというと、比較的手厳しい意見が多く、私もそれに応えられるほど、石井式を存じ上げていなかったし、発表者は良さを実践を通して体得しているものの、何も知らない人にうまく説明する段階まではもう一息だったために、発表者にとっては歯がゆい定例会となってしまったと思う。(でも、それがこの研究会のいいところでもある!そこに学びが生まれると思っているから。)
懐疑的だった方の意見は、主に以下のものだった。
・幼児に漢字を教える必要があるのか?情操教育などもっとやるべきことがあるのではないか?
・どうして、その漢字を教えるのか?(我々が普段漢字で表記しないものが多くあったし、かなり複雑な漢字を取り上げていた。)
・よく意味がわからない子供たちに、ただの暗記教育にならないか?
なんとなく、石井式=早期英才教育みたいに捉えてしまった方も多かったように思う。前に読みかじった石井勲先生の記事のニュアンスとは違うなとは感じたのだけど、冒頭に書いた通り、モヤモヤとしたまま会を終了することになった。一度、ゆっくり時間をとって勉強した方がいいなと思いつつ。
その後、日々の忙しさに翻弄されて時間が過ぎていたが、なんと、1月末に、そのメンバーの方にお会いした時に、石井式の本をプレゼントしてくださった。
2月の休みにようやく、その本を広げることができて、ああ、なるほど!と思ったので、書き留めておきたい。
目次
なぜ幼児に漢字を教えるのか。
幼児は優れた丸暗記能力、すなわち機械的、記名能力を備えているため、写真を撮るように漢字を記憶できると言う(右脳優位)。この能力は3歳ピークに下がってい行き、9歳10歳あたりで左脳の方が優位になってくるらしく、それまでは、あまり理屈を説明したり、書き指導したりすることに時間を割かず、この特性を最大限に利用するように漢字を見せ、意味がわかるというインプットを繰り返した方が長い目で見て効率的だからだそうだ。
そうして、漢字を習得すれば、確かに、身の回りに溢れる表示に意識が向き、世界が広がるだろう。つまり、漢字そのものを教え込むというのではなくて、漢字を知ることで世界を広げさせてあげようということなのだ。
また、別の効用もあると言う。『漢字を「音」して捉えてから意味を理解する』という一般的に私たち大人が行うプロセスではなく、『漢字を見たら直接意味理解をする』というように情報処理をするようになるので、本を読むスピードがとても速くなる。一般的に、ひらがな表記より、漢字表記の方が、私たちの読み取るスピードは10倍以上速いらしく、最初から漢字で学習したら、それを頭の中で、音に置き換えることをせずに、漢字から一瞬で意味を読み取る習慣がつくので、早く黙読することができるそうだ。
これは、私にも感覚で理解できる。文法でガチガチと勉強した英語はどうしても翻訳してしまい、なかなか出てこないのだけど、現地で学んだフランス語は、その時間差がない。
どんな漢字を選ぶのか
具体的なものを指す漢字。
例えば、「鳥」と「鳩」という2つの漢字があった場合、幼児にとっては後の方がずっと簡単とのこと。漢字としては、「鳩」の方がより複雑になるけれども、幼児にとっては「鳩」と言われた方が「鳥」と言われるより、さっと具体的なイメージが頭に浮かぶので、記憶しやすいと言うわけだ。なるほどと思った。
積極的な解字指導は左脳が発達してから。
ただひたすら、暗記させるのかと言ったら、そういうわけでもなく、子供が漢字の中に共通点を見つけたり、部品の組み合わせに目を向け始めたりしたら(解字)、それは左脳が発達してきた証拠と捉えて、大いに褒める。ただ、こちらから先回りして教え込むのではなくて、子供自身が発見するまで辛抱強く待つとの事。
教え込まれたものは、なかなか子供のものにならないし、子供は発見することにこの上なく喜びを見いだす。共通点を発見しようにも、ある程度の漢字持ち数が子供の中にない限り、そこまで発展しないので、幼児のうちはインプットに注力する。なるほどな。
定例会のときに、「天道虫」という漢字を教える必要があるのか?そもそも私たちは、「てんとう虫、テントウムシ」と書くのに・・・。」という疑問が出たが、ここに理由があるのだとわかった。さらに言えば、石井式では、「すぐ役立つ漢字」「小学校に上がったときに役立つ漢字」といった目先のことを考えているわけでないんだ。「先取り学習」である事は確かなんだけれども、それは、1ー2年先のことを先にやるという意味ではなくて、もっと長いスパンで見て、子供が漢字のルール性等を自分自身で気づけるようにすることにあるんだ。
「てんとう虫」の例で言えば、最初、子供は絵としてそれをそのまま丸暗記して、知っていることを褒められて喜ぶのだろう。だけど、後々、太陽のことをお天道様といったり、太陽に向かって歩くてんとう虫の習性を知ったときに、「ああ、なるほど!」って知的に理解する喜びや表意文字である漢字の素晴らしさに気づくことになるのだろう。
今の私の実践現場で応用するとすると・・・
私は今、主に1、2年生の基本漢字を楽しく習得する漢字クラブというのと、日本の国語の指導要領に準じた3、4年生のクラスを教えている。
今回のこの本での学びを応用すると・・・
漢字クラブでは、
書きではなく、漢字の意味理解や読めることにもっとフォーカスすべき
ということ。
3、4年生のクラスの方では、
左脳を刺激する「解字指導」にフォーカスすべき
ということがよりクリアに見えてきた。小学校3 、4年は、もう丸暗記に適した年齢ではないのだから!
漢字教育の目的
この本の中で、1番大きくうなずいたこと。それは、
漢字漢字教育の目的は、漢字を覚えることではなく、漢字で学ぶことによって言葉を豊かにすること
という一文である。まさしくそこが私が「継承語として学ぶ子どもたちの漢字をなんとかしたい」と思った原点でもあるので、この原点を忘れないようにしないと改めて思った。
いゃ〜、思っていたけれども、石井式も奥が深い。そして奥が深いものほど、なかなか一般の人に理解されにくい(笑)
石井式は全国各地に広がっているし、特別の教材なども販売しているようだが、儲け主義とは程遠いように感じている。門下生や保護者に、電話相談なども随時行っていることが、この本の中の「現場リポート」から、わかった。頭で大体理解しても、やはりが使いこなすまでにはどうしても紆余曲折があるので、そうしたサポートは必要なんだなぁ、というのもおまけの学びだった。時間リミットがあって、ザッと斜め読みしかできていないのだけど、それだけで、これだけの学びがあった。プレゼントしてくださったメンバーの方に感謝!