英国日本語教育学会(BATJ)が主催したセミナーに参加した。タイトルは
漢字学習方法にバリエーションを〜明日から始める教室活動
ということで早稲田大学日本語教育センターの濱川祐紀代先生が講義をしてくださった。大人の学習者向けの指導を行っている先生なのだけど、私が手がけている継承語として日本語を国語と外国語の間で学んでいる子どもたちの漢字の課題と共通してるものもたくさんあった。すごくすっきり整理されていたし、いろいろなアイデアや気づきも生まれたのでここに書き残しておきたい。
セミナーは、「学習者にとっての漢字学習」「教師にとっての漢字指導」「漢字指導法、活動例」の組み立てになっていて、どれもなるほど!と思うことばかりだった。
目次
学習者にとっての漢字学習
非漢字圏の学生さんたちにアンケート調査をして、漢字が好きなわけ、嫌いなわけ、どういうことを知りたいのか、どういう風に学んでいるのかなどを整理してくださっていた。
好きなわけは、来日当時は、「漢字の美しさ」や漢字特有の「表意文字」であることに惹かれているが、その後、「学習方法がわかってやればできる」から、「言葉の意味が早くわかる」など、漢字の便利さやその増やし方がわかることで好きになっていくようだ。
嫌いなわけとしては、「漢字数の多さ」「読み方が複数あること」「1つの漢字を複数の言葉に使うこと」「学習方法がわからない」などで、適切な学習方法を見出せないと達成感も持てず、迷子になってしまうようだ。
学習方法は、来日時はほとんどが「書く」一辺倒で、その後は「読む」「見る」「分解する」など多様な学習方法を身に付けている学生が多いようだ。
学生の要望としては「使い方を教えてほしい」「漢字の勉強の仕方を教えてほしい」というのがあるとのこと。
これらは継承語の子どもたちと全く同じ。低学年のうちは、数も少ないし象形文字が多いので楽しんでやっていくのが、3、4年生位から、勉強の仕方が確立したり、実際に使い方がわかったりしなければ子どもは混乱し、徒労感ばかりが募り、どんどん興味を失っていく。低学年のうちは、ある程度、書き順を丁寧にやる必要もあるが、「音訓読みを同時に入れていくこと」「熟語としてどのように使われるか意識させ、使い方を体得すること」「漢字の習得を書く以外の方法でも見つけ、自分なりの学習法を確立すること」が大事なんだと思う。
教師にとっての漢字指導
事前に、教師に「漢字に対する意識」と「指導法の調査」を行ってくださっていた。
結果、意識の上では「読み」が大切と考えていて、「書き順」「きれいに書くこと」「とめはねにこだわること」が重要視していない教師が多いとのこと。
指導法となると、「文字単位ではなく言葉単位で教える」「ストーリーを利用したり作ったりしながら覚えさせる」「音訓同時に指導」など、意味や音に焦点を合わせた指導を心がけていることが伺えた。一方で、「漢字の知識を整理」したり「自律学習を続けられるような指導法」は手薄になっていることがアンケート結果から、うかがえた。例えば、部首、音符、同音異漢字という視点から分類するなどである。
ブレイクアウトルームでご一緒したお二方の先生は、イギリスの大学で教えられているということで、漢字の指導法についてお話を聞くことがきた。苦笑いされながら、漢字の指導はほとんど学生任せだという話でした。以前、フランスの大学で日本語を教える先生もそうおっしゃっていたので、大学では手とり足取り、漢字を教える時間がなく、漢字は学生任せが通常の様子。それでも年間何百個という漢字の習得は当たり前で、テストでそれを測り、大人の学習者なので、ついて来れなければ脱落という、結構シビアな世界らしい。
授業の中で、漢字に割く時間が限られているという点では、海外補習校やインターナショナルスクールと同じ。限られた時間でどこに時間を割くか、どう自律学習に結び付けられるかというのは、ほんとに大切な問題だ。
漢字指導法、活動の例
漢字の要素を形、音、義、用法の4つに分けてそれぞれに焦点を当てた活動例を紹介してくださった。
形
字型パターン認識ゲーム
漢字を上下型、左右型、中外型、全体型など見分ける活動。
→漢字の分解合成の視点を持たせる活動とてもいいと思う。複雑な漢字を見た時にも、これを瞬時に頭の中で行い、線ではなく、知っている部品の合成だと認識できれば、漢字の形の習得は雪だるま式にどんどん早くなる。私が授業で使っている「ミチムラ式」はまさしくこれを系統的に教える方法で、抜群の効果を感じる。時々は、こんな風にゲームにするのもいいと思った。
一人一画ゲーム
先生が漢字を指定し、グループで一画ずつ書き足して、漢字を完成させるという活動。
→先生が漢字の書き順をしっかりしなさいと言わなくても、学生たちで自然にお互い調べたり、注意し合ったりとのこと。私はあまりやらないけど、小学校教育では、みんなで一斉に空書きさせるのが一般的。なんとなく手を動かしているだけの子どももいるし、第一、飽きてくる。書き順を間違えやすい漢字では、遊び感覚でこんな活動を取り入れるのも面白いと思う。どこかで使わせていただこっと!
書写
ドリルで何回も書かせても、やったやらせたという満足感や安心感があっても、結局は覚えてないことが多い。なので、大きく丁寧に1回書かせるにとどめてるという話。
→これも大いに賛成。私が対処してることもある程度はやはり書かなくちゃいけない時もあるけれども、ドリルのように繰り返し書かせると「ぬりえ状態」になってほぼ覚えていない。間違えてるといけないので私も1度はきれいに書かせて、それを見るけれども、後は、水書道とか尻書きとか、黒板に書かせるとか、飽きないように、でも部分を意識して書く活動の工夫が必要。
音
音符を教える
形声文字の教え方だ。同じ部分を持つ漢字を並べて、「読み方を辞書で調べてみましょう」と提案。学生たちが同じ読み方があることに気づいた時に、それを「音符」として認識させる。例えば、校、効、郊と並べて、「共通した部分「交」、この音符はコウと読む」に気づかせるわけだ。
→ある程度漢字のもち数が増えてきた時(小学生の場合は4年生位かな?)、こういう方法は、頭を整理したりロジックにものを考えられるので、とても大事。
用法
基準を作って漢字をグループ分け
漢字をランダムに9つ位並べて、品詞や送り仮名等で漢字をグループ分けさせる活動。
→私も、101漢字カルタを使って、お題に合わせて漢字を選ぶという活動を1年生の娘と一緒にやったことがあるが、普通のカルタ遊びとまた違って頭を使うのが面白いらしく、結構乗ってきた。
そんな感じで、一方的にワンパターンでインプットするだけでなく、知らない漢字でも予想しながらゲーム方式で遊ぶと知的に楽しめるし、こういう活動を繰り返すうちに、頭の中で既習のものを整理する箱ができて、学ぶスピードが速くなるのだと思う。常時シャワーのように日本語を見聞きして覚える母語と違って、外国語としての日本語の学ぶ場合は、この「整理力」がないと、すぐに飽和状態に陥ってしまうか、忘れてしまう。
むりやり会話
「今日習った漢字を全て使って会話を作成しましょう」という課題をグループに与え、それを発表しあう活動。最初はすべて漢字を使っていればokだけども、面白い設定、笑える展開の時は、大いに褒めるとのこと。数回繰り返すうちに、楽しい文を考えられるようになるとの事。
→私の授業では、短文作りは授業ではあまり時間を割けず、宿題にしているけれども、時々はこういう「おもしろ作文」をみんなで考える時間をとると、宿題も楽しめるかなと思った。そういえばうちの息子が学校でこういう作文作りを補習校でしてくれた時はとても楽しんで、家までそのことをよく覚えて帰ってきてた。
義
意味やなりたちなどを調べる
すべての漢字がこの方法でうまく説明できるわけでないし、いつも必要もないけど、1つのきっかけとしてどうですかという話だった。
→その通りだと思う。一つ一つ全てこれで説明しようと思うとまくいかないし、好みもあるけど、これに食いつく子もいるので、一つの学習方法としていいと思う。
名前漢字探し
外国の名前にどの漢字を当てはめるかなどを、その音と意味を書いておいてあげて自分で選ばせると言う活動。例えば、Mikeなら、「舞」「久」でdance foreverなどと考える。学生さんが自分で漢字の意味を考えて、選ぶ楽しみになる。
→ 当て字を考えたり、漢字を創作する活動は、漢字の持つ意味に焦点を当てるときに、すごくいい活動だと思う。私は授業ではやったことがないけど、子どもに自分の名前の漢字を親御さんがどんな思いでつけてくださったのかインタビューさせて、作文を書かせたりすると盛り上がることが多い。
熟語パターン分け
熟語の構成パターン4つを示しておいて、その熟語がどこに分類されるかを考える活動。熟語には、A=B、A⇆B、A→B、A←Bなど、4つのパターンがある。私たちを知らない熟語に出会ったときに無意識にこれを使ってその熟語の意味を知ろうとしている。学生さんにもそのルールを意図的に教えようという活動。
→これはすごく大事な活動だと思う。子どもだと小学校5年生位の国語の教科書の中で出てくるけれども、小学校3、4年生で熟語の数が増えてくる頃に、時々こういう活動を遊び感覚で入れると、語彙の習得ぐっと速くなるし、意味がわかる場面が多くなると思う。
己書
筆ペンで漢字をユニークに書いて、その時に気持ちを書き加えるだけで、アートが出来上がりと言う活動。それをお互いに見せ合うことで、会話も弾むという話だった。
→ これもどこかで実践してみたい活動!同じ書くにしても、ドリル以外の方法があるだけで、子どもは楽しんでくれる。楽しめば、何度でも意識せずに書いて、自然に覚える!
と、多くの学びがあったセミナーなのだけど、中でも、最後のまとめがその通りだなと思った。それは、
教師は漢字の学習方法の選択肢を広げるアドバイザー
というくだり。漢字学習には魔法のような方法は無いし、それぞれに合った方法はみんな違う。なので、いろいろな選択肢を与えてあげることで、それぞれがニーズタイミングに応じて学習方法を選べたら自律学習ややる気の保持につながるのではないかとのこと。その通りだと思う。そのためには、教師自身がたくさんの引き出しを持っている必要がある。
全体として、私が進んでいる方向は間違ってなかったんだなぁと、安心したセミナーでもあった。
結局、授業のいろいろな縛りの中で漢字に割く時間は限られているので、最近は学校外で漢字クラブというのを開いている。そこではとにかく楽しみながら、いろいろな活動の中で漢字の原理原則に気づくような仕掛け作りをしている。もちろんそれだけでは、漢字を定着するところまではもっていけないのだけれども、そこで漢字を見る視点や、自分なりの学習方法を見つけてくれれば、学校でのやや単調な学習でも自分なりの喜びを見つけて漢字の数を増やしていってくれるのではないかと感じている。
使えそうな辞書アプリ
辞書アプリ、サイトの紹介もあった。子どもたちがこういうものを使うきっかけを与える活動も今後考えていきたいなと思う。
Imiwa
https://apps.apple.com/jp/app/imiwa/id288499125
Jisho
https://jisho.or