前回、我が家と私の教師経験から、二つの国の算数の教え方の違いのざっくりとした説明を試みた。
今日は、勤務校で算数を教え始めて、思い出した我が家の上2人の小さかった頃のエピソードを紹介したい。
WISCのテストを受けた時の話
長女が2年生の時、息子が幼稚園の年長さんの時の話だ。
特別支援教育の勉強をしていた同僚から、WISC試験の実施者としての経験を積みたいので、うちの子供を実験台に使わせてくれないかと頼まれた。
私も興味があったので、横で見学させてもらうことにした。
そこでは、言語力や図形認知力などを測るために、たくさんの設問があり、それを試験者に促されながら、子供はどんどん答えていくのだけど、その中で2人の答え方でとても興味深かった算数の問題があった。
問題:1人8個ずつの飴を3人に配るためには、何個の飴が必要でしょうか?
細かい文言は覚えていないが、要は、8✖️3の計算を要求される問題なわけだ。
小2でかけ算の九九を習い始めていた娘は、すぐにこの「8✖️3」の式が頭に思い浮かんだようだ。そして言ったことが「あ、今、これ学校勉強している。8✖️3。でも、まだ8の段はやっていないから答えられない」
息子はというと、すぐに問題の意味を理解して、両手を出して、「1、2、3、・・・8。1、2、3、・・・8。」と3回数え、24!と答えたのだ。
10本の指を超えたところで、諦めるかなと思っていたのだけれど、諦めず、そして、2回10を通り過ぎて、指が4たっているので、24と答えたことに、私は驚いた。3つ年上の姉は、「答えられない」と答えたのに!
習っていない事は答えてはいけない。日本の学校文化
長女だって、8+8+8と考えて指を使わずに計算することができたはずだ。
でも、キッパリと「答えられない」と答えた彼女の姿に私は「日本の学校の優等生」の悲しい姿を見出してしまった。
「8✖️3」と咄嗟に頭に思い浮かべ、「今は、4の段までしかやっていない。8の段ははこれから学校でやること」と理解して、「答えられない」と答えた娘をどう考えればいいのか、とモヤモヤしていた。
フランス系インターナショナルスクールで働き始めてよくわかるのは、算数に限らず、日本の学校には、どこかまだ、「習っていない事は答えてはいけない」という無言の圧力があるのだ。
例えば、日本の学校では度々子供たちに板書をしていると指摘された「先生、その漢字はまだ習っていません!」というフレーズは、今の勤務校では「先生、その漢字、まだ習っていないから、もっと大きく書いて!」「なんと読むんですか?」「これも漢字で書いてみたい!」となる。
両国の算数の授業の進め方
息子は当時、日本の学校にもフランスの学校にも行っていなかった。なので、その当時の彼の算数の力は天性のもの。フランス式算数教育が育てたものとは言えない。でも、その後、彼は日本の学校様式にどうしても馴染めなかったのは、こういう天性を持っていたからだと思う。また、フランスの学校文化が彼の算数の力を大きく育んでくれたんだろうなと思う。
というのは、彼が4年生の頃、補習校の先生にこう言われたことがある。
「算数の授業の後の休み時間に、息子さんに『どうして、先生はわかっているのにわかっていないふりをして、僕たちに考えさせて最後に発見したことみたいなことを言うの?』『どうして、いつも僕を最後に指すの?』と聞かれて、困りました。だって、それが私の仕事だからとしか答えられないんですけど」と。
私は教員なので、先生のおっしゃりたいこともよくわかったし、息子の気持ちもよくわかって、うーーーんと思ったのを覚えている。
つまり、日本ではある種の授業の型に則って、算数では新しい概念を導入、その必要性を感じられように授業を組む。そして、できるだけそれは子供が発見したように持って行こうとする。先生は、なるだけ多くの子がそのプロセスを理解できるように授業を進める。なので、すでに、わかっている子は最後に指名して、みんなで「ああ、そうか」となるようなのが「いい授業」とされる。なので、先生にとってはまさしく、それが仕事。
でも、息子にとっては、語弊を恐れずに言うと、それが「茶番」に見えてしまったのだろう。
息子は、だからと言って、それに反発するタイプでもないので、日本語補習校では最後に手を挙げることにしたみたいだけど(笑)、結局、最後まで「どうしてみんな一緒にやろうとするんだろ?」と、日本のやり方は好きではなかったようだ。
ちなみに、フランスは、20人規模のクラスでも、算数に関しては、比較的個別のペースに合わせて進めていく方式をとっていくことが多いように感じている。
一度、当時小4の息子のフランス人の担任と日本語補習校の算数の授業を見学したことがあったのだけど、その時、その先生が「フランスでは、算数は、中学年になると差が著しいから、個別のペースでとなることが多いけど、たまにはこういう集団授業も大事だなと考えさせられた」と感想を教えてくれた。
というわけで、色々考えると、
集団授業と個別のペースに合わせた授業を両方うまく組み合わせていくことが大事
というごく当たり前な結論に達するのだけど、現場でこれをうまく調整するのは、結構難しい。毎回、これでよかったのかなぁと悩む。