9月から超久しぶりに初級の日本語を外国人向けに教えることになったので、慌てて手に取ったこの本。思いがけず、漢字指導の所がとても参考になったのでブックレビューとしてシェアしたい。
目次
お勧めの人
- 海外で継承語として日本語を教えている先生
- 成人向け日本語教師
漢字指導の目的
マルチリンガル漢字指導法研究会を始めてから、一年位で行き着いた結論は、
1字1字の指導にこだわるのではなくて漢字の原理原則を教える
ということだった。考えてみれば当たり前のことだが、補習校などで学年配当漢字を限られた時間で教えないといけない環境にいる先生や保護者にとって、必ずしも当たり前のことではない。どうしても近視眼的になって、どうやって時間内に教え込むか、下手をすると終わらせるか、に目がいってしまうからだ。
でも、漢字のない環境で、しかも半分位の時間で子供たちに漢字を教えるのは所詮、無理なのだ。それなので、授業の中では、次のことにポイントを絞るべきだと思う。
- 漢字学習全般に応用が利く知識の伝達を確実に!
- 授業外で自学できるような動機付け、学習方法の紹介
日本語を外国語として教えることを前提としている、この本ではこのことについて、次のように表現されている。概ね言いたい事は同じだと思う。
日本語の漢字を教えるという事は…(略)「膨大な量の「漢字語彙」を自主的に学習できるような認知的学習戦略を与える」こと…(略)基本的な学習戦略を与えれば、どの漢字を学ぶかは学生個々が必要とする語彙の性格によって自然と決定されるので教室で全ての漢字を教える必要はありませんし、またそれは不可能です。p157
漢字指導法
筆者は、漢字の指導法を一般的なやり方とは逆な「トップダウン式」で行うことを提案している。
具体的には以下のステップを踏む。
- オーセンティックな資料の提示
具体的に、教えたい漢字が入っている生の資料(本や漫画の切り抜きなど)を掲示し、文脈から意味を想像、把握することから始める。=漢字の意味、音の理解 - 漢字を部品に分解してみる=漢字の形をとらえる
- 体を動かしながら部品を合成してみる=漢字の形を再現
手のひら→背中→紙上というふうにステップを踏みながら、形を習得。
トップダウンといういい方が適切なのかは疑問だけど、要は現実世界で実際に使われている文脈の中で、漢字の意味を想像して、音や形を覚えていくという方法。
これは、学習者にとって、すごくモチベーションが湧くだろうし、まさしく自分が持てっている知識を総動員して意味を理解しようとするだろう。特に、日本語以外の一般的な知識のバックグラウンドがある成人学習者には向いていると思う。
子ども学習者でも、語彙が豊富な子なら、お菓子のパッケージや工作の手順とか使ってできることもあるだろうし、教科書に沿ってやっている場合でも、読み方に使えたときに前後の文脈から想像させることも大事だと思う。
今、私が教えている現場は、教科書の縛りがあるけれど、時々はこういう導入の仕方をしてマンネリを防いだり、習った字を現実の世界から見つけてくる宿題を出したりして、漢字を少しでも「文脈化」「個人化」することで知識の定着を図りたいと思う。
その他、漢字の部品の分解合成は、御馴染み「ミチムラ式」の考え方とほぼ同じだけど、学習者によって、ここまでスモールステップを踏まないといけないのかという気付きになった。
学ぶ漢字、熟語の選択方法
継承語教室などで漢字を教える場合、必ずしも教科書に沿った学年配当漢字を意識して学ぶ必要は無い。その時迷うのは、
どの漢字を選ぶか
ということ。
また、学年が進むにつれて、漢字1字だけを教えても意味がなく、熟語とセットで教えていかなければならない。特に音読みしかないし漢字の場合は音と形だけだけ覚えても、全く意味をなさない。この時、指導していて悩むのは、
どんな熟語を選択するか
というところである。この本の筆者は、漢字の選別について以下のように述べている。
…漢字学習は外語彙学習の性格が強いので、学習者個々人の言語使用ニーズを考慮せずに「常用漢字× 字」などと字数でレベル設定することが適当でないと考えます。
「熟達度指針」…初級レベルの読み書き能力とその範囲内で必要な語彙群を記述してみると、次のようになると思います。
簡単な書式や書類に情報を書き込むことができる。氏名、日付、国籍等、簡単な自己の経歴に関することを書くことができる。メニュー、地図、日程表、標識にあるような簡単な語句や指示表示が読み取れる。短いメッセージや手紙などが読み書きできる。
また、取り上げる語彙については、この本の中では具体的には述べられていないが、
そもそも漢字は語彙の1部として、基本的に個人の好みが強く出る学習項目なので、クラスをまとめて同じように教えるということが極めてしにくい分野でもあります。そのため、漢字の学習には「個人化」の指導理念が不可欠なものとなります。そこで、漢字指導の場合も、「語彙概念マップ」の手法を使うことをお勧めします。
としていて、「個人化」を勧めている。
これを読んで思ったのは、
どの漢字、熟語は目の前の子どもで変わるから、悩みすぎない
でいっかということ(笑)どうしても、将来覚えておいた方がいい言葉とか、考えてしまうけど、それよりは、今、学習者にとって意味がある文脈を考えた方が定着するのかなと。
もし、今、私が継承語教室で教えるとしたら…
ホップとして…
- 漢字がたのしくなる本シリーズ①の101の基本漢字の読み書きの習得
象形文字、指事文字の知識を交えながら楽しく読み書き
ステップとして…
- 漢字がたのしくなる本シリーズ②③④をつまみぐいしながら漢字の筋トレ
会意文字の意味を知りながら、ストーリー作りを楽しむ
部首の名前や意味をしり、漢字の意味を推測する
形成文字の仕組みを知って、漢字の読みを推測する
- 現実社会から子どもが興味がありそうな場面を漢字かな交じり文で提示
文脈の中で漢字を覚える
音訓読み、別の熟語など、できる限り知識を拡げる
ジャンプとして…
- アウトプットしたい場面設定をして、ワードに打ち込んで適切な漢字を選ぶ
- わからない漢字を調べる方法学ぶ
- 自分に合った持ち漢字数を増やす方法をみつける
という風に、教師主導型と学習者主体型とを組み合わせながらやりたいなと考えたのだった。
さてさて、漢字のことだけに焦点を当てたブックレビューとなったけど、日本語初級者向けの指導方法も、細かいコツを惜しみなくシェアしてくれていて、この本はお勧め。私ももう少し読み込まないと!
コメントを残す